お上手ですこと
「お上手ですこと。」というセリフを見ると、僕にはその話者が「女性」「上流・上品」であるように聞こえる。この後に笑い声が続くなら、間違いなく「オホホ」だ。「ハハハ」とか「エヘヘ」ではない。「ガハハ」なんてありえない。(いや、ジャイアンが「お上手ですこと ガハハ」ならアリかもしれない。笑いを誘う意図的なギャップだ。)
このニュアンスを作り出しているのは「お」と「こと」だと思う。「お」は「丁寧語」や「美化語」を作る接頭辞で、過剰な使用が話題になったりすることもあり、素性が良く知られていると思う。では「こと」の方は何か?
辞書をいくつか調べたが、僕が見た国語辞典は例外なく「終助詞」としている。解説や意味の説明はいろいろだが、感動を表す、断定を和らげる、相手に同意を求める、といった働きがあり、新明解などいくつかの辞書は「主として女性語」という感じの注記を加えている。文法情報を掲載している辞書は「用言の終止形に接続」としている。(他の接続を併記している辞書もあるが、終止形接続はすべての辞書が挙げている。)
ところが、
これを MeCab-UniDic で解析すると、「こと」が名詞になってしまう。「名詞 / 普通名詞 / 一般 / *」だ。それに合わせて「です」は連体形と判定される。「です」の連体形というのは、普通は「普通の名詞の前には立たない。用言の連体形に接続する助詞(例えば準体助詞「の」)の前のみ。」ということになっているような気がする。つまり、解析結果がおかしい。
なぜそうなるのかと思っていろいろ調べたら、なんと、UniDic には「こと」という終助詞が登録されていないのだった。
surface が「こと」である語は四つあり、うち三つは「名詞」。残る一つは「副詞」だが… 副詞の「こと」って何だろう?
まさか国語研は「お上手ですこと」を含む言語資料を持っていないのかと一瞬思ったりしたが、さすがにそんなことはなかった。BCCWJ の「少納言」というシステム(https://shonagon.ninjal.ac.jp/ )でコーパスを検索してみたら、「お上手ですこと」は2件見つかった。どちらも小説で、セリフのようだった。つまり、UniDic を作った人たちは「お上手ですこと」という「こと」の用例を知った上で「終助詞『こと』」を語彙表に登録しないと判断したように思われる。つまり、この文の最後の部分は、終助詞「こと」ではない、何か別の品詞と見なすのが妥当と判断したらしい。さすがに「ます」の連体形+名詞「こと」が妥当な解析とは思えないので、UniDic の基となったBCCWJの解析テクストを見てみたいが、そのデータは一般公開されていないのだった。
ま、僕としては「こと」自体はなんでも良くて、その前の「です」が「終止形」と判定されて欲しいだけなのだが、「こと」が名詞のままではそういう解析結果になるはずもなく。かと言って、「終助詞」なんていう機能語を、十分なコーパスもなしにユーザー辞書に新規登録するのは避けたいし。
どうしよう。困った…。
# 因みに、困っているのはこの件です。
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